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桃色万年筆
桃色万年筆
皆様、はじめまして。早乙女 淫娘(サオトメ インコ)です。
ここでは官能小説や日々の妄想、男女の体(SEX)について想い描く私の“ドスケベ”を綴ります。
好きな獲物は情熱的なモッコリ男。嫌いな獲物は何も言わずにイク男。
どうぞよろしくお願いします。世界中がエロスで潤いますように...

ホウロウ 其の一

11/01/18

蹴り飛ばした小石が、足の先を離れ道路沿いのドブにポチャリと音をたてて落ちた。

外は青空が広がりそよ風が頬を撫で過ぎ去ってゆく。

「はぁ・・・」

ため息をつきながらコートの右ポケットに手を突っ込んだ彩は、ポケットの中で握りしめた拳をゆっくり出して開いた。

「あと、362円かぁ...」

財布なんて今の自分に必要ない。

そう思った時、財布はその場で捨ててしまった。

たしか、コンビニのゴミ箱だったと思う。

それ以来、コートの右ポケットが財布の役目をしていた。

《ギュルルルルルルゥ~》

気の抜けた鈍い音がお腹から響いている。

『そういえば昨日の夜から何も食べていなかった...』

彩は辺りをグルリと見回した。

あいにく、人はあまり歩いていない。

『人通りの多い場所に行こう...』

彩は顔をあげて繁華街を探し歩きだした。

────────────────────────

平日だというのに、街は賑わっていた。

彩は人混みに紛れながら視線を泳がせている。

目の上ギリギリで切られた前髪から覗くその瞳は、行き交う人達を反射させ揺らめいていた。

彩は大きな通りから路地へと入っていった。

数メートル前に一人の男が歩いていた。

パーカーにジーパン、スニーカーと出で立ちは普通だが、首から一眼レフカメラをぶら下げていた。
その男はふらりとお店に入ると、店の外にある座席に腰を下ろした。

そこは、アジアン料理のお店だった。

真っ昼間だというのに店内はムダなネオンでギラギラとしていた。

彩は、その男が座るテーブルに近寄っていった。

「あの、ここに座ってもいいですか...?」

男は一瞬辺りを見渡し、戸惑いの表情を見せた。

「他にも空いてる席あるけど...ここでよかったらどうぞ。」

彩は同じテーブルに座った。

店員がやってきてカタコトの日本語で話はじめた。

「オフタリサマデヨロシデスカ?ゴチュモンガキマリマシタラオヨビクダサイ。」

男はコクりとうなずくと、店員はテーブルに二つ水を置いて去っていった。

「な、なに食べますか?俺はここに来たらいつも屋台ラーメンにするけど...」

「それじゃ、私も同じもので...。」

そう言うと、男は店員を呼びオーダーした。

少し沈黙が続いた後、彩から口を開いた。

「初めまして、ですね。いきなり同じテーブルに座ったりしてゴメンナサイ...ここへはよくいらっしゃるんですか?」

丁重な問い掛けに男の警戒心も解けたようだ。

「いや、いきなりでビックリしたよ。だけどご飯は一人で食べるより誰かと一緒に食べた方が美味しいから、それに女性と食事する機会なんて滅多に無いし、俺の方こそ悪い気がして...さっきも聞いたけど本当にこの席でいいの?他、空いてるよ。」

男は申し訳なさそうに彩に問い正した。

「ここがよかったんです。彩、カメラが好きだから、少し話を聞いてみたくって...全然詳しくないんですけどね...。」

彩は小さく微笑んだ。

「アヤちゃんっていうんだね。俺は雅之、よろしくね。失礼だけど、アヤちゃんは何歳?見た感じ若そうだけど。」

「歳は19です。雅之さんは?」

「19歳ッ!?俺は38歳...アヤちゃんの約二倍ッ!」

「おぉー!大人だ...!」

彩がそう言うと二人は笑顔になった。

雅之はかつて世界中を旅していた。

大学卒業後、初めて勤めた会社でいきなり海外出張を命じられ、人生で初めて異国の地へ足を踏み入れることになった。

そのことがきっかけで、約三年間その会社を勤めた後、貯めたお金を持って世界中を転々と旅したのだった。

「写真は、その一瞬一瞬を鮮明に残してくれるでしょ。それを後から見返すとさ、その時の感情や空気や情景が甦ってくるんだよね...そうすると、その場所をまた旅している気持ちになれるんだ。」

雅之は遠くを見つめるように、目を細めながら話してくれた。

「こうして、常日頃カメラを持ち歩いて身近な物にいつでもシャッターを押せる心構えをしておくと住み慣れた街でもたくさんの発見があるんだよ。」

そう話していると、注文した食事がテーブルに届いた。

「美味しそうですね。あっ、これは写真に撮らなくていいんですか?」

彩が言うと雅之は答えた。

「これはもう前に撮ってあるから、今日はいいんだ。」

二人はまた笑顔になった。

______________

「ふぅ?美味しかったぁ?ごちそうさまでした!」

空腹状態だった彩はスープまで一滴残らず飲み干した。

「彩ちゃんはよく食べる子なんだね。」

空っぽになった器を見て雅之は驚いた。

「実は昨日の夜から何も食べてなくて、すごくお腹が空いていたんです...」

彩は恥ずかしそうに下を向いたまま話した。

「そうだったんだ、お腹が空いていたならもっと注文すればよかったのに...」

「彩、あんまりお金も持ってないから...」

雅之は気転がきかなかったことを少し後悔した。

「そうだ!アヤちゃんまだ時間ある?もしよかったら店を変えてもう少しだけ話さない?この近くに美味しいスウィーツのお店があるんだけど、もちろんオレがご馳走するから。」

雅之はもう少し彩と話したいと思った。

「いいですよ、だけど彩...スウィーツじゃなくて...他に...。」

彩は突然口をつぐみ黙った。

「ん?もしかして行きたいところが他にあるとか?」

雅之はなぜ彩が無言になったのか分からず、次に出てくる言葉を待った。

「彩、、、
ホテルに行きたい......」

雅之は驚きのあまり、返す言葉が見つからなかった。

動揺を悟られまいと毅然とした態度で振る舞おうとするも、頭の中は真っ白になるばかりで気まずい空気が二人のテーブルを包んだ。

彩は何も言わずに黙っていた。

沈黙の中、雅之が飲み込んだ生唾の音だけが二人の間に響いた。



───────続く───────
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