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桃色万年筆
桃色万年筆
皆様、はじめまして。早乙女 淫娘(サオトメ インコ)です。
ここでは官能小説や日々の妄想、男女の体(SEX)について想い描く私の“ドスケベ”を綴ります。
好きな獲物は情熱的なモッコリ男。嫌いな獲物は何も言わずにイク男。
どうぞよろしくお願いします。世界中がエロスで潤いますように...

ホウロウ 其の三

11/12/28

カーテンの隙間から漏れた、眩い光で目が覚めた。

簡素な造りの古いホテルの一室で、まだ半分寝ている彩の瞳を太陽の光が容赦なく刺激する。

数日寝泊りしているこの安いホテルにもやっと慣れてきたところだった。

ベットから下りた彩は、素足のまま洗面台へと向かった。

空調の整っていない洗面所、そこに漂う冬のツンとした空気が彩の体を縮めた。

冷たい水で手を濡らし、寝ぐせのついた髪を一つにしばると、水で口をゆすいだ。

再びベッドへ戻り、腰を下ろして彩は小さく溜め息をついた。


(ふぅ〜、今日こそ...)


床に脱ぎ捨ててあったパーカーを拾い上げて着ると、部屋のスリッパを履いてそのまま廊下へと出た。

盗まれて困る物は何もなかったので部屋の鍵はかけなかった。


部屋を出て、横にある階段から一階に下りると、正面に小さな売店があった。

朝食はいつもそこの売店で済ませていた。

売店の前まで来ると、彩は中に入る前にチラッと店の中をのぞきこんだ。

店内にはブルーのナイロンジャケットにジーンズ姿の従業員の男性が一人、

暇そうな表情でレジカウンターの前に突っ立っていた。


時折チラチラと時計を見ては誰もいない店内へ視線を戻し、

ただ何となく時が過ぎるのを待っている、といった様子だった。


―カラカラカラ‥―


彩は控えめに売店のドアを開けた。


「いらっしゃいませ」


男が挨拶すると、彩もレジの方をチラリと見て軽く会釈をした。

狭いスペースにはお菓子や洗剤、インスタント食品などが整然と並べられていた。

食料品の棚に目を移すと、今朝配達されたばかりの弁当やパンが陳列してあった。

彩はその棚から、おにぎり一つとたまごサンド、缶コーヒーを手に取りレジへと向かった。


「いらっしゃいませ、おはようございます。」


男はさわやかな顔つきで彩に挨拶をした。


「おはようございます‥」


なぜか照れくさかった彩は、一瞬目を合わせたものの、すぐに下を向いて挨拶を返した。


「今日も寒いですね」


男は柔らかい口調で彩に話しかけた。

男の顔は近くで見ると思ったよりも若く、自分よりも少し年上かな?といった印象だった。


「ここ数日、毎朝買いに来てくれていますね。何泊目ですか?」


そう言いながら男は商品のバーコードを読み取っていた。


「今日で三日目です。でも明日にはそろそろチェックアウトしなきゃと思ってて...」


彩はそろそろ所持金が底をつきそうなのを心配していた。


「この町へは旅行かなにかで?」

「いえっ、旅行ってほどでもないんですけど...ただなんとなくプラッと遊びで...」

「そうですか。一人で出かけるのもいいものですよね。

あ、えっと、お会計462円になります」


彩はポケットから500円玉を1枚取り出すと、パチンとレジカウンターの上に置いた。


「38円のお返しです。どうぞ」


男は彩の掌に、ゆっくりとお釣りを乗せた。


「今日はこれからどこかへ出かけるんですか?」

「えッ?」

「いえっ、ただ少し気になったので聞いてみました。急にすいません」


男は申し訳なさそうに視線を逸らした。


「今日の予定は、いまのところまだ何も決めてなくて...

部屋に戻ったら少し考えてみようかと思ってたところです。

それじゃ、お仕事頑張ってくださいね」


彩は品物の入った袋を受け取ると、男に背中を向けた。


「ちょっと、待って!」


すると、男は彩を呼び止めた。


「あの‥もう少しだけ時間いいですか?あっ、俺の名前はコウスケっていいます。

あなたの名前は?いきなりこんな事聞いて失礼ですよね、すみません」


さっきより早い口調になり、申し訳なさそうに頭を下げた。


「大丈夫ですよ、気にしないでください。私の名前は彩っていいます」


彩はコウスケの質問に快く応じた。


「彩ちゃん、実はその‥、会ったばかりでこんな事言うのもなんだけど...

今日よかったら一緒にどこか行きませんか?」


思わぬ誘いに彩も驚いて目を丸くした。


「俺、このあと朝の9時に仕事が終わるんです。いつもなら部屋に戻ってゆっくりするところだけど、

明日は休みだし時間に余裕もあるから、彩ちゃんがもし良ければなんだけど、

俺に付き合ってくれないですか?

あっ、ちなみに俺はこのホテルで住み込みで働いてます。

だから仕事が終わったらすぐに合流できるんだけど...だめかな...?」


コウスケは遠慮がちに彩を誘った。


「う〜ん......そうだな...今日は予定もないし、いいですよッ! !

コウスケさんに付き合います。

いま7時半だから、あと少しでお仕事終わりますね」


彩は無邪気な笑顔をコウスケに見せた。


「よかった!それじゃあ、悪いけど仕事が終わるまでもう少し待っててくれるかな。


仕事が終わったら連絡するから。電話番号を聞いてもいい?」


コウスケはジャケットのポケットから携帯電話を取り出そうとしたが、

彩はそれを制止するかのように言葉を挟んだ。


「あっ、番号は後で教えます。部屋に携帯置いてきちゃったので。

それで...もし良かったらなんですけど......」


彩の話すテンポが少しずつ遅くなり口ごもった。


「ん?どうかした?」


コウスケは前屈みになり、彩の顔をのぞき込んだ。


「もし良ければ...仕事が終わったら私の部屋に直接来てもらえますか?

えっと、変な意味とかじゃなくて、今から戻ってご飯も食べたいし、

出かける準備もしたいから...。

私、準備に時間がちょっとかかるので...

コウスケさんが終わる時間に準備が間に合わないと思うんです。

部屋は正面の階段を上った3階の302です。来てもらえますか?」


彩は様子をうかがうように、上目使いで問いかけた。


「俺、ここの従業員だし、部屋に行くのはちょっとマズいかな...。

ん〜、でも、このホテルはセキュリティーも他のホテルよりぜんぜん甘いし...。

こっそり行ったら見つからないかも。 

よしっ!分かった。それじゃ、部屋に行くよ!お邪魔していい?

どこに出かけるか部屋で一緒に決めよう。でも、お願いだからこの事は誰にも内緒で......ねっ!」


彩に言い聞かせるように最後の言葉は力強かった。


「はい、すみません...わがまま聞いてもらっちゃってありがとうございます。

部屋の鍵は開けておくので仕事が終わったら勝手に入って来ていいですよ」


彩は屈託のない表情でにっこりコウスケに微笑んだ。


―カラカラカラ‥―


そこへ他のお客さんが店内へ入ってきた。


「いらっしゃいませ。」


『それじゃ、彩ちゃん9時半に302号室で...』

『ハイ...待ってます...』


二人は小声で約束をかわし、彩は売店を後にした。


―――――つづく――――――
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